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関東だより:彦根城の世界遺産登録の目指すもの

公開日 : 2021.2.18
関東だより:彦根城の世界遺産登録の目指すもの

関東圏の滋賀県人会の会員の皆さまより、近況報告、趣味、旅行、日本社会や世界への提言、随想など、バラエティー豊かな投稿記事を募集し、東京県人会のHP「いま滋賀」に掲載します。
今回は、彦根城世界遺産登録推進室 細川修平様からのご寄稿です。


彦根城の世界遺産登録の目指すもの

滋賀県文化スポーツ部文化財保護課
彦根城世界遺産登録推進室 室長補佐 細川修平

今、滋賀県と彦根市では、彦根城の世界遺産登録を目指しています。令和6年を目標に、価値の証明や保存管理の体制整備など世界遺産登録に必要な課題に取り組んでいます。平成4年に暫定一覧表に記載されて以降、ようやく、その実現が見えてきたと感じています。

さて、世界遺産登録の目的とは何でしょうか。世界遺産条約の趣旨でもあるように、彦根城を人類共通の資産=宝として、将来にわたって確実に継承することは言うまでもありません。しかし、現在の世界遺産においては、さらに多くの目的や意義が必要となっています。

その一つが文化の多様性への貢献です。悲しいことに現在においても、民族や人種、信仰など多くの壁が人類を分断し、紛争や混乱を生み出している現実を否定することはできません。そうした中で、自らの文化を世界遺産として発信することを通じて、それらを相互に認め合い、継承のために協力する。世界遺産を軸として人類の相互理解が深化することこそが目的であるという議論です。

今一つが、持続可能な社会への貢献です。環境破壊、気象変動など現在社会の課題への対応として、「持続可能」という視点から社会の在り方を改めようとするものです。そして、世界遺産こそが地域の課題を解決し、持続可能な地域社会の形成の核になるべきとしています。観光の開発などによる地域経済の活性化とともに、歴史と文化を体感できる持続可能な地域づくりを進める。世界遺産はその両立を目指す必要があり、それを実現できてこそ、資産の未来への継承が可能となるのです。

現在、彦根城の登録推進の作業の中では、彦根城の価値を「江戸時代の政治体制」に求めています。すなわち、江戸時代は、250年以上もの安定した社会を形成し、武士や貴族にとどまらず商人や農民なども含めた豊かな文化を築き上げた時代です。その前提となった江戸時代の政治の体制とは、幕府と藩が担った、いわば中央集権と地方分権を両立させた世界的にも独特の体制であることが明らかになってきました。その政治の中枢であり、かつ、政治体制を象徴している、そして、その特徴を最もよく保存している彦根城にこそ、人類共通の価値があると考えています。

250年以上も安定が継続した江戸時代は世界の歴史家が注目しています。また、江戸時代の文化の代表である歌舞伎や浮世絵が、多くの外国人の興味を引き、大きな影響を与えていることもよく知られています。こうした江戸時代の政治・文化を世界に発信する価値は十分にあり、世界からも理解が得られると考えています。そのうえで江戸時代の文化を深く考えれば、滋賀には、朝鮮半島との平和外交に尽力した雨森芳洲の思想や行動、渋沢栄一にも大きな影響を与えた中江藤樹の教え、開国を決断した井伊直弼の知性、「三方良し」とする近江商人の哲学、彼らも扱った近江上布や浜縮緬、それらの産物を育んだ自然と共生した生産活動など、誇るべき多くの人物、文化、産物、暮らしが存在することに気付きます。これまでも、これらは個別に注目されることはありましたが、それらが一体となったものこそ、江戸時代の文化なのです。私たちは彦根城の世界遺産登録の背景として、滋賀の誇るそうした歴史・文化・人物・伝統産業を、改めて世界に力強く発信する必要があると思っています。そうすることによって、世界遺産の求める文化の多様性・相互理解に通じると思うからです。

また、滋賀という視点は、「持続可能な社会」という視点からも重要です。滋賀は琵琶湖を有し、早くから琵琶湖の保全と郷土の発展の両立を目指してきました。「せっけん運動」に代表される琵琶湖を取りまく種々の活動は、まさに「持続可能」への先駆けです。彦根城の保存管理と琵琶湖の保全は直接関係するものではありません。しかし、そうした滋賀の「持続可能」への取り組みの歴史と現状を踏まえることでこそ、彦根城の保存管理は人々の共感するものとなり、また、世界の人々に明確な意思を伝えることになるものと思っています。同時に、この歴史にならい県民一体となったエネルギーで、彦根城をはじめとする滋賀の歴史・文化を守り継ぐ体制を作る必要があると考えています。

このような考えで彦根城の世界遺産登録を推進することは、故郷・滋賀の魅力・役割を再発見し、世界に向けて力強く発信ことにほかなりません。これは、我々滋賀に住む者と滋賀を故郷とする人々に、共通の誇りを生み出すものではないでしょうか。そして、この誇りを発信し、国外、国内を問わず多くの人々と共有する。世界と滋賀の新しい関係の形成こそが世界遺産の目標です。私どもは彦根城の世界遺産登録に必要な作業を推進します。皆様もご理解のうえ、ご支援、ご協力をお願いします。

ともに、滋賀の魅力・役割を再発見し、世界に発信しようではありませんか。

 

「彦根城世界遺産登録 意見交換・応援1000人委員会」会員募集!

彦根城の世界遺産登録に向けて、市民・県民や行政・企業・有識者が一体となって、情報共有・意見交換を行い、応援する団体です。会員の皆様には、世界遺産に関するセミナーやイベントなどの案内をいたします。ぜひ1000人委員会のメンバーにご参加ください。

●入会申込方法(メール)

タイトルを「1000人委員会申込」とし、下記のアドレスまでメールでお申し込みください。
氏名、住所、電話番号、メールアドレスをお伝えください。

彦根市文化財課 彦根城世界遺産登録推進室
hikone-wh@ma.city.hikone.shiga.jp

 

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